東京高等裁判所 昭和55年(ラ)150号 決定 1981年2月18日
抗告人
株式会社太平洋クラブ
右代表者
池田勉
右訴訟代理人
伊坂重昭
同
猪瀬敏明
相手方
小泉・アフリカ・ライオン・サファリ株式会社
右代表者
小泉和久
右訴訟代理人
石川秀敏
外二名
主文
本件抗告を棄却する。
理由
一本件抗告人の趣旨は、「原決定を取消す。相手方(債務者)は、別紙物件目録記載の土地への迂回路である市道東名二の岡永原線、市道東名永原駒門線、市道中清水駒門線及び市道大野原駒門板妻線のうち総延長約八八〇〇メートル部分の道路が完成するまで、右土地及び同土地上の附帯施設において、小泉・アフリカ・ライオン・サファリ・富士自然動物公園を営業してはならない。」との裁判を求めるというにあり、その理由は、別紙記載のとおりである。なお、抗告人は、原審においては、「相手方(債務者)は、原決定添付別紙物件目録記載の土地について、小泉・アフリカ・ライオン・サファリ・富士自然動物公園及びその附帯施設の建設事件に関する一切の工事をしてはならない。」との裁判を求めていたところ、当審において、その求める裁判の趣旨を右のとおりに変更したものである。
二そこで判断するに、仮処分申請却下決定に対する抗告審である当審において、その求める裁判の趣旨を右のとおりに変更することが許されるか否か、また、これが許されるとしても、右変更後の仮処分の被保全権利の存在について疎明があるか否かの各点についても問題があるが、ここではそれらの点の検討はしばらく措き、まず、右変更後の仮処分の必要性について疎明があるか否かについて検討する。
ところで、右変更後の仮処分は、民事訴訟法第七六〇条所定の仮の地位を定める仮処分である(なお、右変更前の仮処分も同様である。)から、その仮処分は、争いのある権利関係につき本案訴訟の裁判が確定するまでの間に、抗告人(債権者)に回復しがたい損害が生じたり、急迫な強暴が及んだりするなどの重大な事態が発生するのを防止するため、仮の地位を定めなければならない緊急の必要がある場合に限つて認められるものというべきである。
そこで、右変更後の仮処分につき右に述べたような必要性があるかについて考えるに、一件記録によれば、抗告人(債権者)は、会員制のゴルフ場等の経営を業とする会社であつて、御殿場市板妻字三ツ塚にもゴルフ練習場、テニスコートを含むゴルフ場を所有していること、東京方面から右ゴルフ場へ来る利用客の多くは、昭和五二年四月ごろから、東名高速道路の御殿場インターチェンジを経由し、国道一三八号線約二キロメートル、同二四六号線約一キロメートル、県道御殿場須山線約四キロメートルを利用していること、一方、相手方(債務者)は、昭和五五年四月二三日、別紙物件目録記載の土地及び同土地上の附帯施設において、自然動物公園の営業を開始し、その後現在に至るまで約一〇か月間、右営業を継続していることが一応認められる。しかしながら、右自然動物公園の営業のために、抗告人(債権者)につき前記のような重大な事態が発生したり、それが発生する高度の蓋然性が生じたりしていることを認めるべき疎明はないのみならず、右自然動物公園の営業の開始後、同公園への入園者のうちどの程度の者が前記国道一三八号線等を利用しており、その結果どの程度の交通渋滞が生じているのか、また、右営業の継続が抗告人(債権者)の前記ゴルフ場の経営にどの程度の影響を及ぼしているのかなどの点についてすら全く疎明がない。
そうすると、右変更後の仮処分は、その必要性についての疎明がないといわざるをえないし、また、このような事案においては、保証を立てることによつて右必要性についての疎明に代えるのも相当でないというべきである。
三以上の次第であつて、右変更後の仮処分は、その余の点について検討するまでもなく、これを認めることができず、従つて、本件抗告はその理由がないといわざるをえないから、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(川上泉 奥村長生 福井厚士)
物件目録<省略>
【抗告の理由】
一、裁判所は抗告人の本件仮処分申請をいずれも被保全権利の疎明がないとして却下したが、抗告人の申請は法律上の理由からも、疎明資料からも理由があり、更に抗告人は昭和五五年二月九日付にて申請の趣旨変更及び申請の理由追加申立書及び甲号証の疎明書類を追加している、追加申請の理由及び疎明書類の点からも充分に疎明されているから原決定を取り消して抗告の趣旨記載の仮処分決定を求める。
二、原決定は「公道利用権を企業である抗告人には通常考えられない」としているが、企業が活動するには公道の利用は必要不可欠であり、企業にとつても法律上保護されるべき当然の権利である。
三、また交通問題をサファリパーク開園迄に解決することを確約していることは相手方作成の書面により明らかであり、何ら抽象的に今後の方針のみを表明したにすぎないものではなく、このことは相手方が昭和五四年一二月一三日静岡県御殿場市に対し迂回路として市道東名二の岡永原線、市道東名永原駒門線、市道中清水駒門線及び市道大野原駒門板妻線内総延長約八、八〇〇メートルの道路を整備・施工し、開園迄に完成させることを約束していることからみても、具体的に実現することを約束したものである。
四、更に地震に対する対応策欠如について、原決定は、「法人である抗告人が生命・身体・自由について被害を蒙ることはありえず」として被保全権利を否定しているが、抗告人の企業活動は企業利益はもとより抗告人ゴルフ場利用者の生命・身体の他、プレイに関する利益を保護する立場にあるから、単なる金銭に換算しうるべき経済的損失にとどまるものではない。
二、抗告理由の追加補充として
1 債務者はサファリパークを昭和五五年四月二三日開園し、営業するに至つた。(甲第五二号証)
2 迂回路は用地買収が完了していないばかりか、二車線通行可能な道路として整備されておらず、道路としての完成には程遠い現況にある。(甲第五三号証)
3 ところで債務者は昭和五四年一二月一三日御殿場市に対して差入れた念書によれば、迂回路完成までサファリパークの開園はもとより営業しないことを確約している。(昭和五五年二月九日付「申請の趣旨変更及び申請の追加理由申立書」の追加申請の理由記載のとおり)
なお開園しないことには、営業しないことが含まれることは自明の理である。
4 そこで債務者のサファリパーク営業は前記3に違反している。
5 よつて債権者は公道利用権及び前記念書に基づき債務者のサファリパーク営業禁止を求める。